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大阪高等裁判所 昭和60年(行コ)41号 判決

大阪市豊中市山ノ上町一三番二二号

控訴人

渡辺祥

右訴訟代理人弁護士

長野義孝

山内良治

大阪府池田市城南二丁目一番八号

被控訴人

豊能税務署長

佐藤輝雄

右指定代理人

佐山雅彦

浅利安弘

下芝一守

高田安三

岸川信義

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が昭和五五年一〇月二二日付でした控訴人の昭和五三年分所得税の分離長期譲渡所得の金額を三三三一万六六五七円とする更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張、証拠の関係は、次に付加するほかは、原判決事実摘示と同一(ただし、原判決一一枚目裏五行目の「別表2」を「別表3」と、同六行目の「別表3」を「別表4」と、同七行目の「別表1」を「別表2」と、それぞれ改める。)であるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

一  本件(一)土地の件の弁護士の処理は、その大部分が訴訟的な面よりむしろ売却処分を目的とする示談交渉の面にあった。したがって、控訴人が弁護士に支払った報酬金一一九万円のうち相当分は、売却処分の成功に対するものである。その内容は依頼者と弁護士との間で決定されるべき性質のものであるから、控訴人と長野弁護士との間において、報酬額のうち三割相当の三五万七〇〇〇円を訴訟的側面の仕事に対するもの、七割相当の八三万三〇〇〇円を和解(売買契約の成立)に対するものと合意して領収証を更新した。

二  本件(二)土地の件の弁護士の処理は、その全部に近い部分は、売却処分を目的とする示談交渉にあった。殊に本件(二)(1)の土地については売却交渉以外にはなかったものである。したがって、控訴人が弁護士に支払った報酬金二一三万円は売却処分の成功のみに対するものというべきであり、なお訴訟的部分があるとしてもその部分は五分程度に過ぎないから、その額は一〇万六〇〇〇円が相当であり、二〇二万四〇〇〇円は売却処分に対する報酬とするのが相当である。控訴人と長野弁護士は報酬の内容を右のように合意し領収証を更新した。

三  したがって、本件の弁護士報酬全部が土地売却に要した直接の費用でないとしても、右に区分した売却の成功に対する報酬部分は、売却に要した直接費用に当たるというべきである。

(被控訴人の主張)

控訴人の右主張は争う。控訴人は、これまで一貫して弁護士に支払った報酬はすべて売却という成果に対するもので、その全額が売却(譲渡)に要した直接の費用に該当する旨主張していたのであるところ、控訴審において突如として費用を分割して主張するものであって、それ自体措信しえないものである。

(証拠関係)

当審における証拠関係は、当該記録中証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

当裁判所も、控訴人の本件請求は理由がなく棄却すべきものと判断するが、その理由は次に付加訂正するほかは、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決二二枚目裏二行目及び同二七枚目表一一行目の各「必要」の前に「直接」を、同二九枚目表五行目の「要した」の前に「直接の」を、それぞれ加え、同二七枚目表一〇行目「右弁護士費用は」とあるを「右弁護士費用全部が」と、次行「認め難いし、」とあるを「断じ難い」と改め、以下同裏六行目までを削除する。

二  同二五枚目裏一二行目の「一四日」の次に「高一住宅(高橋孔一)、大洋住宅を仲介者として」を、同二六枚目表一行目の「右事件」の前に「渡部に対し右売却代金のうち境界紛争の解決金として八二万七一二五円を支払うことによって、」をそれぞれ加える。

三  同二六枚目表八行目の「ない。」の次に「なお、控訴人は本件土地はいずれも利用価値が低いので処分することを考えており、本件(二)土地の事件処理を弁護士に委任した際には右土地の売却をも依頼した旨述べるけれども、右売却の依頼については、控訴人の原審及び当審の供述を対比するとにわかに措信し難い。」を加える。

四  当審における控訴人の主張について

控訴人は、当審において弁護士に対する報酬を、事件処理と売却に区分したと主張し甲第三一、第三二号証を提出するが、控訴人が当初報酬の全額が譲渡費用と主張していたところ、譲渡費用に該当するか否かは諸般の事情から客観的に判断すべきであり、かつ、通常一般的に直接必要と認められる経費であることを要するものであって、納税者が主観的に区分することによって経費該当の存否が決せられるものではない。本件において、前示引用にかかる認定、説示のとおり、本件(一)、(二)(2)各土地は、その占有あるいは境界をめぐって紛争があり、控訴人はこれが解決を目的として弁護士に委任したものであり、それぞれ訴訟法上の手続を経た後紛争解決の方法として売却され、本件(二)(1)土地は、本件(二)(2)土地の紛争解決に付随して合わせて売却されたもので、しかも、本件(二)土地売却については、仲介人高橋に仲介料六〇万円が支払われ、課税するについて譲渡費用として相当なものと認められ控除されているのであるから、これらの事情を考慮すると、右区分された売却処分に対する報酬が譲渡費用に該当するとは解し難い。よって、控訴人の主張は採用しない。

すると、右と同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから棄却することとし、民訴法九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 乾達彦 裁判官 宮地英雄 裁判官 横山秀憲)

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